一級建築士試験には「学科」と「設計製図」の試験があり、学科を突破した人だけが受験できる第二の関門と言うべき設計製図。
現在の建築業界では、PCを使用してCADで図面を書くのが当たり前となっているにも関わらず手書きで行うこの試験は、毎年多くの受験生を苦しめています。
これから受験を考えている人の中には、そもそも手書きで図面を書いたことがない人もいるでしょう。
そういった人にとっては何から書いたらいいか分からない、どんな図面を書いたら合格出来るの?と思うはずです。
また、合格に必要な図面を理解していても難しい理由があります。
それは「試験時間」です。
設計製図の試験で合格出来るかどうかを左右するものに、試験時間内に書き終えることが出来るかどうかにあります。
学科試験ではむしろ時間を持て余すこともあるでしょう。(建築法規以外)
そのせいで見直しをした際にさらに悩んで、結局「直さなければ良かったー!」なんてこともありますよね。
しかし設計製図の試験は1分、いや1秒も惜しいと感じるほど時間が足りません。
その理由を解説していきます。
本記事の内容
・問題の難易度よりも試験時間が厳しい
・1秒でも速く作図する5つの方法
設計製図の試験時間は6時間30分
え!?そんなにあるの!?
こう思った人が大半だと思います。僕も最初はそうでした。
しかしこの6時間30分全てが作図に使える時間ではありません。
作図に入るためにいくつかのステップを踏む必要があります。
「課題文の読み取り」
:敷地条件、要求室、面積、必要図面など作図に必要な情報が書かれている。
「エスキス」
:読み取った内容の作図に入る前の下書き。最も重要。(提出無し)
「計画の要点」
:課題文に対してどんな建物を計画したか、設備・構造計画についても記す。(A3用紙提出)
「作図」
:エスキスでまとめたものを作図する。(A2用紙提出)
作図に入るまでに大きく分けると3つあり、このどこかでつまずいたり間違えてしまうとせっかく書き終えたとしても不合格となります。
それぞれ時間配分を気にしながら取り組むのですが、目安として
「課題文の読み取り」+「エスキス」=2時間
「計画の要点」=1時間
「作図」=3時間
中間チェックや見直しで30分の計6時間30分です。
しかし本番は緊張でこのようにはいかないでしょう。
中でも多いのが、エスキスがまとまらずに予定の2時間を過ぎてしまい、見切り発車で計画の要点、作図へと入ってしまうパターンです。
これでは途中にモヤモヤしたまま先へと進めていき、どこかで計画が成り立っていないことに気付いて計画の要点の訂正や、図面の直しなど余計な時間を消費して未完成で終わってしまいます。
それを避けるためにもエスキスを完璧にしておく必要があります。
逆に言えばエスキスがまとまった段階で予定の2時間以内であれば、試験は8割がた終わったと考えても良いでしょう。残りは淡々と書く作業だけですから。
あとは体験談として、資格学校で6時間30分通しで模擬課題に取り組んでいた時には開始から2時間程で計画の要点を書き殴るシャープペンの音が教室に響くのですが、僕の受験した年の本番では2時間30分程でやっとその音が響いていました。
普段エスキスが遅い自分が教室内で早い段階でエスキスを終えることが出来たのでその時点で「勝った!」と確信し冷静に書き終えることが出来ました。
聞いた話によると、中にはエスキスがまとまらず、泣き声が聞こえることもあるようです(汗)
1年間死に物狂いで頑張ってきた意味がなくなりますからね・・・
それほどの緊張感とピリついた空間が本試験です。
それでも本試験では火事場の馬鹿力が働くことがあります。
普段作図に3時間かかっていた人が2時間半で書き終えることも珍しくありません。
図面が汚くても未完成よりは100倍マシです。
とにかく最低3時間以内で書き終えるようにしましょう。
ではどうすれば速く作図することが出来るのか紹介していきます。
1秒でも速く作図を終わらせるための5つの方法
道具にこだわる
エスキスに色を付けておく
平面図は各階並行して書く
定規・フリーハンドを使い分ける
後半は製図板から図面を外す
これらを1つずつ説明していきます。
道具にこだわる
6時間半を共に戦う製図道具はかなり重要です。
ここはケチらずに良いものを揃えたほうが良いでしょう。
特に製図用シャープペンシルは自分に合ったものに巡り合うまで何本か試してみて下さい。
重さやグリップが違うだけで書きやすくなりストレスも無くなります。
あとは芯の濃さにもこだわって下さい。
筆圧は人それぞれ異なるので図面の出来栄えに影響します。
筆圧が弱い人は濃い芯で作図することで迫力が出ますし、強弱も付けられます。
少なくとも異なる芯のシャープペンシルが2本は必要です。使い分けましょう。
それから、作図中は道具を使ったら必ず同じ場所に戻すことを心掛けて下さい。
机の上がスッキリするだけでなく探す手間も省略出来ます。
些細なことと思うかもしれませんが、この積み重ねが6時間半後に大きな差となることでしょう。
エスキスに色を付けておく
エスキスがまとまった段階で作図に入る前に必ず中間チェックを行いましょう。
その際に蛍光マーカーでいくつか色を付けていきます。
例えば、
開口部:青
PS・設備系:紫
植栽:緑
建物後退距離ライン:赤
など、上記はあくまで参考ですが、このように色付けをしておくと作図がスムーズになります。
エスキスのチェックに加えて、作図した後のチェックでも有効になります。
特にPSは書き忘れがちなので試してみることをお勧めします。
平面図は各階平行して書く
平面図は3平面作図することになります。
これを1フロアずつ書くよりも同時に進めた方が効率がいいです。
並行定規と三角定規を極力動かさない方が速いので、
先に横の線を全て引き終えてから縦の線を引くようにしましょう。
作図中に悩まないようにエスキスは小さく折り畳んで邪魔にならないよう製図板の上に置くと良いです。
そして平面図はある程度書き進めたら断面図に移ります。
これは平面図に時間をかけすぎて、断面図の未完成を防ぐ為です。
目安は躯体と階段・エレベーターを書き終えたくらいで大丈夫です。
断面図を終わらせてから平面図に戻り、最後のラストスパートをかけるイメージです。
このように図面を書く順番を工夫するだけでも時短することが可能になります。
定規・フリーハンドを使い分ける
これはほとんどの人が実践されているかと思いますが改めて説明します。
柱・躯体などの直線部分は定規でビシッと決まっていると見栄えが良くなります。
それ以外の家具や扉の軌跡線などはフリーハンドで書いた方が圧倒的に速いです。
そして中にはオールフリーハンドで作図する猛者もいます。
もちろんプランが欠落していなければ合格出来ますし、不思議と味があるというか良く見えたりします。
ですが日頃からフリーハンドで書く習慣のある人しか使えない技だと思いますのであくまで参考まで。
後半は製図板から図面を外す
定規を使用する箇所を全て書き終えたら製図用紙を製図板から外します。
製図用紙をクルクル回したり、自分の書きやすい位置に移動すると文字や寸法、家具や植栽など書きやすくなります。
特に縦の寸法は体を横向きにしないと書きづらかったのがストレスでしたが、これで解決出来ます。
この方法は資格学校の担当の講師に教えていただきましたが、全てのクラスで同じやり方を実践しているわけではないので、他の受験生に差をつけることが出来るのではないかと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は設計製図が速くなる方法を紹介しましたが、実践することですぐに効果を感じることが出来ると思います。
少しでも受験生のお役に立てたら嬉しいです。
最後に、講師の人に聞いた小話を少し。(※確証はありません)
設計製図の採点は減点法と言われていますが、詳細な合格基準は分かりません。
また、膨大な枚数の解答用紙を人の目でチェックしていくので採点者によって合否が左右される場合もあります。
仮に採点者1人につき100枚の解答用紙をチェックするとします。
まずパッと見の印象が良い20枚の解答用紙は法規違反や室欠落など簡単なチェックだけで合格とするそうです。
もちろん印象が良い図面は正確に書けている証でもあるので納得は出来ますね。
設計製図の合格率は約40%です。つまりこの時点で合格出来る図面は残り20枚しかありません。
80枚中の20枚です。かなり厳しい戦いですよね。
全く同じプランで同じ作図量の図面があるとします。(実際にはあり得ませんが)
残りの合格枠が1枚の場合、合格を左右する項目が1つあります。
それは字の上手さです。
字が上手い図面は見栄えがかなり良いですよね。それだけ印象は重要なのです。
作図のスピードに慣れてきたら見栄えにも意識してみてはいかがでしょうか。
以上、お読みいただきありがとうございました。